FMO (フラグメント分子軌道法) とは、タンパク質のような非常に大きな分子システムを小さなフラグメント (タンパク質の場合はアミノ酸残基に相当) に分割してフラグメント間の相互作用を計算する手法です。
私は、これまで開発してきた分子モデルと計算化学のための統合環境Facioに、FMOのためのGUIを実装しました。これにより、FMO計算のための入力ファイルの作成が非常に簡単となり、また、計算結果が可視化できるので結果の理解が容易になります。
NBO法によると、いわゆる二次的軌道相互作用 (SOI, secondary orbital interaction) は1.49 kcal/molであり、これはNBO間の相互作用のたった7%に過ぎません。これに加えて、多くのNBO相互作用は、一次的軌道相互作用 (POI, primary orbital interaction) よりも小さいがSOIよりも大きいものがあります。従って、Diels–Alder反応においてendo体が速度論的に有利である原因は、SOIだけに帰されるものではないと思われます。
cis異性体における2つのメチル基の立体反発により、trans異性体は熱力学的により安定であると一般的には考えられています。
しかし、Natural Steric Analysis (右の表) によるとcis体の立体反発はCsp2-Csp2-Csp3の結合角が125.3° (仮想的なcis-2-ブテン) から128.4°と大きくなることにより軽減されているように思われます。
実際、近接するメチル基の水素の間の立体反発は1.88 kcal/molで、これはその他のNBO間の立体反発、例えばcis体のσ(CC)-σ(CH) (8.23) やtrans体のσ(CH)-σ(CH) (11.19) よりもかなり小さい値です。
QTAIM (Quantum Theory of Atoms in Molecule) 解析によると、近接した水素原子の原子エネルギーは負の値 (−3.14) で、これは2つの原子間に反発ではなく吸引的な力が働いていることを示しています。一方、中央のsp2炭素は、大きな正の値ですが、これはメチル基の反発を避けるために変形したことで生じた歪みエネルギーがsp2炭素に貯まってしまったと解釈できるのではないかと思われます。