系統の離れた海藻の3グループそれぞれで2種類の生活環が進化したのは、環境によって最適な生活環が異なることが原因である可能性が理論的に示された。季節変動の大きさや死亡率が、環境によって変化するためと考えられる。システム生命科学府の別所さんらがJournal of Theoretical Biologyに発表した。
コンブやアマノリ、アオサなど海藻の多くは、染色体数が半分となる配偶体の世代と、2倍体となる胞子体の世代でそれぞれ独立した藻体を持っている。胞子体が減数分裂によって作る胞子が細胞分裂して配偶体になり、配偶体がつくる配偶子が融合して胞子体になることで世代交代をする。この世代交代の一連の流れを生活環と呼ぶ。
生活環には大きく分けて2種類ある。ひとつは、片方の世代が大きな藻体になりもう片方の世代が微少になる異形生活環、もう一つは両方の世代がほとんど同じ形と大きさになる同形生活環である。
海藻の仲間は、光合成色素の組成により緑藻、褐藻、紅藻の3つのグループに分けられるが、それぞれのグループで異形生活環の種と同形生活環の種が存在する。例えば、同じ緑藻の仲間でもヒトエグサは異形生活環だがアオサは同形生活環であり、褐藻の仲間でもコンブは異形生活環、アミジグサは同形生活環である。
緑藻、褐藻、紅藻の各グループは系統的にとても離れており、かなり前から別々に進化してきたとされる。にもかかわらず、それぞれのグループ内で異形生活環の種と同形生活環の種が存在するのはなぜだろうか?
別所さんらは、2種類の生活環が存在するのは海という共通した環境に適応した結果だと考えた。季節や場所によって環境が大きく異なる海の中で、同じような環境に適応した種同士は、たとえ系統的に遠くても同じ生活環をもつ可能性がある。
そこで、大きな藻体をもつ生活形は補食や物理ストレスの影響を受けやすいため季節によって生存率が大きく変化するが、微少な生活形は成長できない代わりに安定した生存が見込めると仮定した数理モデルを作り、異形と同形の2つの生活環がそれぞれどのような環境で有利になるかを調べた。
はじめに、季節によって環境が変化するときにそれぞれの生活環でどのような世代交代のスケジュールが有利になるか調べたところ、異形生活環の種では、大きな藻体をもつ世代が死亡率の低い季節に生育して、微少な世代は死亡率の高い季節に生育するように世代交代するのが最適となった。一方、同形生活環の種では季節に関係なく一定のサイズに達した時点で成熟し世代交代するのが最適であった。
次に、季節変化の度合いによってどちらの生活環が有利になるか調べたところ、季節変化が激しい環境では異形生活環のほうが有利になることが示された(図3)。また、死亡率が極端に高い環境や極端に低い環境でも異形生活環の種が有利になり、その中間の環境では同形世代交代をする種が有利になった(図3)。
異形の生活環をもつ種は不利な季節を微小な世代でやり過ごすことができるため、季節変動が激しい環境や死亡率が極端に高い環境では有利になる。また、死亡率が極端に低い環境では、大形の世代同士の競争が激しくなり、同形生活環よりも一個体あたりが大形化する異形生活環の方が有利になる傾向があると考えられる。
以上より、年間の季節変化が大きい高緯度の地域や、死亡率が極端に高い潮上帯、死亡率が低い漸深帯において異形生活環の種が有利になることが理論的に示された。
別所さんらは「死亡率に影響する潮位の高さや、季節変動に影響する緯度が海藻の生活環戦略と密接に関わっていることが予想されるため、それらの関係が実際に潮間帯における藻類の分布パターンに反映されているのかを、データ解析などによって検証したい」と話す。
より詳しく知りたい方は・・・